建築物省エネ法の改正案

2019年12月5日

建築物省エネ法の改正で、中規模建築物の基準適合義務化へ

2019年(平成31年)も始まり、はや1ヶ月が経とうとしております。
2017年(平成29年)に「省エネ計算サービス」を開始してから、おかげさまで多くの設計者様よりご好評をいただき、大変ありがとうございます。

ご依頼いただく代行業務の受注が増加し、実際の計算作業を優先するあまり、記事の更新頻度がだんだん低くなってしまうという状況には、少し反省もしており今後の対策を検討しております。

さて、今年初めての記事投稿ということもあり、まずは2019年(平成31年)の通常国会で審議される「建築物省エネ法の改正」に関わることを書いてみたいと思います。

2014年(平成26年)に閣議決定された「エネルギー基本計画」において、「2020年(平成32年)までに新築住宅・建築物について段階的に省エネ基準への適合を義務化する」という基本的な方針がありました。その方針に沿って、2017年(平成29年)に建築物省エネ法が施行され一定規模を超える非住宅用途の建物について、省エネ適合性判定が開始したのはまだ記憶に新しいことです。

しかしその後も法規制の拡大についての具体的なアナウンスがなく、当初の方針が達成されるのかの不安を抱えたままもうすぐ2年が経とうとしており、全ての新築物件で省エネ基準を義務化するという2020年(平成32年)まで2年程度という時期となっていました。

そんな折、昨年2018年(平成30年)12月に「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第2次報告案)」というのがようやく提示されました。

今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第2次報告案)1
今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第2次報告案)1

その後年末年始にかけて、第2次報告案についてのパブリックコメントが公募され、個人と団体をあわせて約1,500件もの意見が寄せられたそうです。

そして1月18日にその回答も含め第2次報告案についての最終報告のとりまとめが行われ、2019年(平成31年)の通常国会で審議されることとなりました。

主な内容としましては法改正後(おそらく2020年度(平成32年度)から)、「非住宅の中規模建築物については届出義務から適合義務化する」見込みの一方で、これまでの基本方針だった「2020年(平成32年)までに全ての住宅・建物の義務化する」という方針は断念し先送りとするようです。

今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第2次報告案)2
今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第2次報告案)2

また、住宅のトップランナー制度についても、大手ハウスメーカーの注文住宅や賃貸住宅などに対象を範囲拡大する方針のようです。

非住宅の中規模建築物の適合義務化

非住宅の中規模建築物については、これまで所管行政庁へ届出を行えばいいというものでしたが、法改正後は適合性判定を求められるということですので、建築確認申請にも関係してくることとなります。省エネ基準に適合させること自体はあまり難しいものではありませんが、適合義務においては届出義務以上に判定機関からの指摘が多く、図面間の整合性や正確性、必要記入事項が求められます。そのため確認申請のスケジュール調整や適合性判定にかかる追加費用なども十分に検討して必要がありそうです。

2017年度(平成29年度)の着工棟数から想定すると、現在の約4倍の棟数が新たな適判対象となり、省エネ判定機関の業務量が単純に4倍となる場合、当然手続きの混雑が予想されます。手続きの簡素化や、さらなる計算方法の簡素化などの要望も寄せられていますので、あまり混乱が起こらないよう、業務が効率化する政策を期待します。

住宅用途および小規模建築物の説明義務化

また第2次報告においては住宅用途の省エネ基準適合義務化について手がつけられない要因がいろいろ挙げられていますが、現在省エネ基準の適合化はおろか、届出義務にもなっていない小規模な建築物や住宅について、まずは建築士に対して「建築主への説明」というのを義務化するという方針が示されました。

住宅用途の基準適合義務化が見送られた要因のひとつに、中小規模の工務店や設計事務所の習熟度が足りていないことが挙げられていました。今までは規模的に対象外だったという設計者の方にとっては、省エネ基準について建築主へ説明しないといけなくなるわけですから、これを機に設計者の習熟を促すことになります。

しかし住宅用途の基準適合義務化が見送られた最大の要因は、やはり多すぎる着工件数です。平成29年度の建築着工統計によると、省エネ適合性判定が求められている非住宅の大規模建築物は、なんと全体のたった0.6%しかありません。

今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第2次報告案)3
今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第2次報告案)3

また、現在届出義務となっている非住宅用途の中規模建築物と住宅用途の中規模以上をあわせても全体の8.3%しかなく、小規模の住宅用途のうちトップランナー制度の対象となる大規模事業者が供給する住宅が既に一定数(全体の約10%)あるとはいえ、届出の義務化もされていない新築物件の棟数が相当量あることがわかります。

いずれにしましても今年の国会で審議をするということなので、法改正を経て中規模建築物の省エネ基準適合義務化などが開始するのはもう少し先のことになりそうです。また詳細なニュースなどが入り次第記事としてお伝えしていこうと考えております。