改正建築物省エネ法の2年後施行の概要

2020年1月31日

ほぼ全ての新築物件が義務化の対象に

今年2019年(令和元年)5月17日に、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律(改正建築物省エネ法)」が公布されました。今回の法改正の施行スケジュールによると改正内容によって大きく2段階の変更時期が設定されており、説明会などでは公布後6ヶ月後となる「6ヶ月施行」と公布後2年後の「2年施行」という分け方で解説されているのは前回の記事で説明しました。

比較的すぐに評価方法などを変更しても現場が混乱しないであろうものは「6ヶ月施行」に含まれ、新プログラムの試行や設計者への周知などに準備が必要なものは「2年施行」として2021年(令和3年)4月まで猶予を持たせているものですが、見出し的には以下の変更内容となります。

2021年4月施行(2年施行)の概要

  1. 中規模のオフィスビル等の適合義務制度の対象への追加
  2. 戸建住宅等における建築士から建築主への説明義務制度の創設
  3. 気候・風土の特殊性を踏まえて、地方公共団体が独自に省エネ基準を強化できる仕組みを導入
法律の審議経過と今後の施行予定等
法律の審議経過と今後の施行予定等

建築物の省エネ性能向上への意識を拡大

法交付後の2年後となる2021年(令和3年)までの準備期間を経て、現在新しい計算プログラムの開発など様々な準備が行われています。中でも重要なものとして、全ての設計者に対する法改正についての周知があげられます。というのもこれまでの建築物省エネ法の規制対象としては中規模の以上の非住宅用途に基準適合義務があることに加えて、延べ床面積300㎡以上の全用途の計画について届出義務があるだけであり、年間の着工棟数の割合で見るとわずか8%だけが対象でした。

戸建住宅をはじめ、小規模の建築物の計画が主となる設計者のなかには、規制対象外であることを理由に建築物の省エネ化をあまり重要視していなかったという方々も多くいることと思います。その背景には、省エネ性能の向上より建設コストを抑える方が優先という建築主の要望に応えようとする設計者の意識も働いているのかもしれません。そのような設計者と建築主への建築物省エネ化の意識を高める必要があります。

戸建住宅等における建築士から建築主への説明義務制度の創設

建築物省エネ法が制定された当初の予定では2020年度(令和2年度)までに新築住宅・建築物の省エネ基準への適合化を義務化するという基本方針がありましたが、省エネ意識の定着や周知が思うように進まず、届出の義務化にさえ至っていません。そこでまず第一歩として「戸建住宅等における建築士から建築主への説明義務」というのが2021年(令和3年)から始まります

小規模住宅・建築物の省エネ性能に係る説明義務制度
小規模住宅・建築物の省エネ性能に係る説明義務制度が始まります

建築主と設計者(建築士)との間では建築士法によるあらかじめ建築主に対し契約内容の重要事項について書面を交付して説明させることが義務づけられていました。そのような位置付けのものとして省エネ計算基準への適否や省エネ性能確保のための措置について説明し、書面での保存というのが追加されます。建築士法に紐付けされるようになると、新築物件に係るほぼ全ての設計者(建築士)が建築物省エネ法の対象となり、建築主と省エネ基準についての意見交換の機会を持てることが期待されています。

また、省エネ基準への適否を検証するための計算を簡素化できるような、新しい評価方法が2020年(令和2年)4月より追加される予定です。

中規模のオフィスビル等の適合義務制度の対象への追加

これまで2,000㎡以上の大規模建築物を対象に省エネ基準への適合義務がありました。基準に適合していなければ確認済証の交付がされないため、着工することができないという規制です。この適否を確認するために「省エネ適合性判定」という手続きが必要となり、その省エネ計画書の作成に多くの追加手間が発生しました。この対象範囲が2021年(令和3年)4月から300㎡以上の非建築用途の中規模建築物にも拡大されます。

建築物省エネ法にも続く各制度
法改正により中規模非住宅建築物が省エネ基準への適合義務となります

適合性判定の手続きは所管行政長や登録省エネ判定機関においても既に混乱がなく行われるようになっていることに加えて、中規模建築物には届出の義務があったため、対象範囲を拡大してもそれほど大きな混乱がないことが予想されています。

気候・風土の特殊性を踏まえて、地方公共団体が独自に省エネ基準を強化できる仕組みを導入

地域の気候や風土により、日本の原風景を長年作ってきた伝統的構法による建築物を採用する場合、断熱材の設置や開口部の性能を担保することが困難な場合が多く、画一的に省エネ基準に当てはめることが現実的ではありません。また昔ながらの伝統木造住宅により、様々な知恵や工夫で地域の気候風土にあった自然な暮らしを追求している心強い設計者も全国には多く存在します。

省エネ基準の合理化対象となる気候風土適応住宅の仕様の例示
気候風土適応住宅の範囲拡大

これまでも届出対象となっている300㎡以上の建築物について、行政との事前折衝を経て「気候風土適応型住宅」の認定を受けることで外皮基準の適用を受けず、かつ一次エネルギー消費量基準の緩和などが認められるガイドラインがありました。今回の法改正では今後説明対象が発生する小規模の戸建住宅にも気候風土適応型住宅が認められるようになったり、自治体毎に独自な仕様を追加できたりできるようになります。