共同住宅の簡易評価方法(フロア入力法)

新型コロナウイルスの感染拡大で、政府が緊急事態宣言を発令してから2週間が経過しました。外出自粛要請により在宅勤務の対応を迫られたり工事中断を余儀なくされたりするなど、対応に追われている設計者も多いことと思います。また省エネ判定機関の窓口業務等も臨時休業となっている場所もあり、1日でも早い終息を願うばかりです。

共同住宅の評価方法に、フロア入力法が追加

そんな中、共同住宅の省エネ性能評価方法の簡素化を目的として、2020年(令和2年)4月15日に新しく簡易評価方法(フロア入力法)のプログラムが公表されました。

まず非住宅用途の省エネ性能評価方法としては標準計算の「標準入力法」よりも簡易に入力できる「モデル建物法」という評価方法があり、計算結果(BEI)が多少不利側の数値になりがちにはなるものの、今ではこちらの簡易計算が主流となっていて、特別な場合以外「標準入力法」による計算を行うことがほとんどなくなりました。

一方で、住宅用途の評価方法としては標準的な「性能基準」「部位の面積を計算しない簡易計算」が追加されたり、より簡易に評価できる「仕様基準」もあったりするのですが、今回共同住宅の評価用に簡易評価方法が追加されたところを鑑みると、やはり主流は「性能基準」だということがわかります。

この新しい評価方法(フロア入力法)が非住宅用途のモデル建物法のように、共同住宅の評価方法の主流になれるかどうかを見てみたいと思います。

共同住宅の評価方法の概要
共同住宅の評価方法の概要

「住戸ごと」ではなく「階ごと」に評価可能

まず前提として、共同住宅の省エネ性能評価については原則として住戸ごとの計算が必要となるため、住戸数が多ければ多いほど計算の手間はかかり、それに比例して審査の手間もかかるものでした。それを今回、申請側と審査側双方の負担を軽減する目的で、入力単位を「住戸ごと」から「階ごと」にする計算方法(フロア入力法)が追加されました。このことにより、入力するデータ数を大幅に削減することが期待されています。

フロア入力法の概要
フロア入力法の概要

フロア入力法の概要

先日公表されたばかりのExcelプログラムに必要情報を階ごとに入力していくと、階ごとに3つの部分(妻側A、中間、妻側B)に分けた外皮性能値(UA,ηAH,ηAC)が計算されます。その結果をもとにWEBプログラムで一次エネルギー消費量を計算します。その結果をさらに入力することで、最終的に住棟全体の評価結果(UA,ηAC,BEI)が集計される仕組みになっています。プログラムの仕様として、30階までの共同住宅を計算することができるようですが、混構造の建物やメゾネット、地下住戸などがある場合にはこの計算方法(フロア入力法)を採用することができません。

標準的な評価方法では住戸ごとの外皮面積等を入力する必要がありましたが、フロア入力法では階ごとの情報を入力していくことになります。主な住戸に設置された開口部のうち最も広い方位を選定したり、対象とする階の外周長さや全窓面積の合計、外気床面積の合計や屋根面積の合計などを集計したりしておく必要があります。そして外皮の仕様についても、部位ごとの代表的な熱貫流率を数値で入力する必要があります。RC造の熱橋については断熱の有無を選択するだけなので、とても簡略化されていると感じました。

共用部分の一次エネルギー消費量については別途入力することができますが、2019年(令和元年)の法改正により共用部分の評価が省略可能になったことにより、入力は任意となっています。

省力化による、評価結果の代償

さて、実際に直近で納品させていただいた物件(3階建:14戸:鉄骨造)について、実際にフロア入力法で評価をしてみました。

外皮面積の集計と入力は外周長さを入力すればいいだけなのでとても簡単で、中でも熱橋計算の省力化は圧倒的です。一方で部位ごとの熱貫流率の計算や開口部面積などの集計は手間としてあまり変化はありません。また今回の物件では階数や階ごとの住戸数も多いわけではないため、一次エネルギー消費量の計算も省力化できている実感はありませんでした。しかし階数や階ごとのプラン数が多い住宅や形状が複雑な計画を評価する場合には、この計算方法で省力化できることは容易に想像できます。

そして標準計算とフロア入力法でどれだけの誤差が出るかを試してみた結果がこちらです。

テスト結果
テスト結果

肝心の評価結果を比較してみた結果、とても看過できるような誤差ではありませんでした。どの項目も不利側な数値となってしまっており、標準計算で基準適合しているにも関わらず、計算方法が変わると不適合となってしまうことがわかりました。また、フロア入力法は住棟全体での基準値で評価する必要があるため、6地域でUA値の基準適合をさせる場合には、0.87(W/m2K)ではなく0.75(W/m2K)よりも、高い性能値でなければいけません。

今後、他の規模でも試算してみるつもりではありますが、今回のように小規模な共同住宅を評価する場合に省力化を目論んでフロア入力法で評価し基準不適合となってしまうよりは、最初から標準計算で評価する方が結果的に二度手間にならないということになりそうです。